寒蝉鳴(ひぐらし なく)

<昭和天皇陛下 御製>

8月13日から七十二侯は、「寒蝉鳴(ひぐらし  なく)」で二十四節気「立秋」の次侯にあたる。

寒蝉(かんぜみ、かんせん)とは、立秋に鳴く蝉で、蜩(ひぐらし)、つくつく法師をさす。七十二侯ではひぐらしの事。終わり行く夏を惜しむかのように、夕暮れ時に「カナカナカナ」と鳴く寒蝉の声。宇奈月温泉は四方を山に取り囲まれている地形故、もの悲しい声が多方向から聞こえてくる。

少し前までは、河鹿の鳴き声が黒部の川から「コロコロコロ」と、川風に乗って心地よく聞こえていたのだが、立秋にはいると寒蝉と入れ替わる。河鹿は清流に住む蛙で、文人墨客の宇奈月で詠んだ歌や詩の中に、度々登場するが寒蝉は出てこない。

宇奈月公園には幾つかの歌碑が建っている。 真夏の蝉時雨から余韻を残す寒蝉に変わり、季節の移行のシグナルを肌で感じながら歌碑を辿るのも宇奈月温泉での過ごし方の一つだ。

涼風至(すずかぜ いたる)

<甘い香りを漂わせる葛の花>

8月8日から二十四節気は「立秋」。猛暑日が続くが、暦の上では秋を迎える。

宇奈月は、日中まだまだ厳しい暑さが続くが、朝に涼やかな川風の気配が感じられるようになる。立秋以降の暑さを残暑といい、手紙の時候の挨拶は「残暑見舞い」となるが、今年はまだまだ酷暑日が続く。

七十二侯は「涼風至(すずかぜ、いたる)」で、二十四節気「立秋」の初侯にあたる。季節は少しずつ秋に向かい、涼しげな風が吹く頃という意味。

山では雨不足により焼けた葉を纏う木々が見られる。葛は様々な樹木に絡みつき、赤紫の花を開花させ、甘い香りを周辺に漂わせている。とにかく暑さに強い植物である。そんな葛の葉の陰から、集く虫の音が聞けるのも間近である。

大雨時行(たいう ときどきにふる)

<雪解け水が流れ込むうなづき湖>

8月2日から七十二侯は、「大雨時行(たいう ときどきにふる)」で二十四節季「大暑」の末侯。

梅雨が明けてからも、 山にはまだ薄暗い雨雲が立ち込め、今にも激しい雨が襲ってくるようだ。 入道雲が湧き上がるようになれば夕立の合図。 大雨が大地を洗い流し、しばし夕暮れの涼を与えてくれる。

黒部峡谷は、涼を求めるお客様で賑わう。トロッコ電車は、ゆっくりと宇奈月駅を出発する。先ず目に入るのがエメラルドグリーンの「うなづき湖」。 2001年に完成した宇奈月ダムによって湛水されてできた湖である。

黒部峡谷は八千八谷と呼ばれ、谷や沢が多い。 湖には急峻な山から流れ出た雪解け水が、満面に湛えられている。峡谷がもたらす川風は、冷を含み爽やかである。

土潤溽暑(つちうるおうて むしあつし)

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<見頃を迎えた球紫陽花(タマアジサイ)>

7月28日から七十二侯は、「土潤溽暑(つちうるおうて むしあつし)」で二十四節気「大暑」の次侯にあたる。溽暑(じょくしょう)とは湿気が多く、蒸し暑い状態のことを表す。梅雨の湿気を帯びた大地に、強い日差しが照りつけて蒸し暑くなる頃という意味。

今年は昨年より15日遅く、7月24日に梅雨が明けた。毎日猛暑が続く中、雪解けが進み、黒部の山々の雪形は、日々小さくなる。

黒部川の水量は例年に比べると少なく、宇奈月ダムからは水が流れていない。黒部川本流の流れは、ダム直下にある宇奈月発電所の発電機を廻し終えた水が放出され、川の流れを作っている。

早朝の山から吹き下ろす風は冷たく心地良い。やまびこ遊歩道の球紫陽(タマアジサイ)が見頃を迎えた。雨上がりの薄紫の紫陽花は、幾分かの涼しさを与えてくれる。つぼみの形が球状なので名前の由来となっている。

桐始花結(きり はじめて はなを むすぶ)

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<桐の花が実を結ぶ>

7月23日から二十四節気は「大暑」。3日前から日暮れに蜩が鳴き始めたので、 梅雨明けが間近である。また、うだる様な暑さが続きそうである。七十二侯は、「桐始花結(きり  はじめて はなを むすぶ)」で二十四節気「大暑」の初侯にあたる。春に開花した桐の花が大暑に入り、実を結ぶ頃という意味。

桐は、キリ科の落葉広葉樹で宇奈谷沿いや宇奈月温泉上流のうなづき湖の湖畔に多く見られ、五月中旬には薄紫の筒状の花が開花する。大暑の今は、卵形の茶色い実を付ける。桐は高木で枝を大きく伸ばし、広卵形の大きな葉を多く付けるので、心地よい木陰を作ってくれる。

古くから、鳳凰の止まる木として神聖視されてきた。花札の桐の図柄もこの伝説からきている。桐紋は菊の御紋に次ぐ高貴な紋章として皇室で受け継がれ、現在は日本国政府の紋章として使用されている。

鷹乃学習(たか すなわちわざをならう)

<黒部奥山の空に鷹が舞う日は間近>

7月18日から七十二侯は、「鷹乃学習(たか すなわちわざをならう)」で二十四節気「小暑」の末侯にあたる。

春に生まれた鷹の幼鳥が、飛び方を覚える時期で、巣立ちの準備をする頃という意味で、鷹は、古くから獲物を捕るための道具として大切にされてきた猛禽類である。鷹狩りは、四千年前に中央アジアの平原で始まり、日本へは四世紀半ばに、朝鮮半島を経て伝わって来たと言われ、とりわけ徳川家康が鷹狩りを好み、鷹術は一種の礼法と見なされた。

家康が好んだ「祢津流」は全国の武家の間に広まった。加賀藩、富山藩にはこの流れを汲む「依田家」が鷹匠として抱えられ、文武二道を旨とする前田家で鷹匠文化として継承されていった。武家にとって鷹狩りは、領内視察のほか軍事演習の意味合いもあったので、武芸奨励として受け継がれた。

黒部奥山は、加賀藩の直轄地で、黒部奥山廻役が定期的に調査に入っていた。この時は鷹や犬鷲の飛ぶ様子で、位置確認や気象予測の参考にしたと言われる。宇奈月の梅雨明けは例年よりも遅れているが、梅雨が明けると黒部奥山の空に鷹が高く舞う盛夏の訪れである。

蓮始開(はす はじめてひらく)

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7月13日から七十二侯は、「蓮始開(はす はじめてひらく)」で二十四節気「小暑」の次侯にあたる。

池の水面に蓮の花が開き始める頃という意味。泥を俗世に見立て、泥より出でて泥に染まらぬ優雅で貴賓高き蓮の花は、仏教の悟りの境地に例えられる。加えてその崇高な清らかな花に極楽浄土を見るのである。修行僧のかぶり物は若い蓮の葉を形取ってあり、未熟者であることを表す。仏教徒にとっては聖なる花である。

蓮が咲く頃は、梅雨明け間近なのだが、今年の宇奈月はまだまだ先になりそうだ。最近の雨量は、少量で黒部川の流れは透明さを増し、水量も落ち着いてきている。河鹿蛙の鳴き声も、川風に乗って心地よく聞こえる。

温風至(あつかぜ いたる)

<聴衆を魅了する「澤カルテット」>

7月7日から二十四節気は「小暑」。例年この時期は、長く続いた梅雨が終わりを告げ夏本番となる頃である。七十二侯は、「温風至(あつかぜ いたる)」で、二十四節気「小暑」の初侯にあたる。温風とは南風のことで、温風が吹いて蒸し暑い日が増えてくる頃という意味。沖縄から順に梅雨明けが始まるのもこの時期である。

今年は、日本列島に梅雨前線の停滞が続き、日照時間が短い日が続く。今日は残念ながら天の川が見られないが、東京芸術大学学長の澤和樹さん率いる弦楽四重奏団「澤クワルテット&蓼沼恵美子」七夕コンサートが宇奈月国際会館セレネで開催さる。結成30年を迎えてますます円熟味が溢れる。

第一部はモーツァルトの弦楽四重奏曲17番「狩」とべートーベンの弦楽四重奏曲第4番。第2部はシューマンのピアノ五重奏曲変ホ長調を演奏。第一ヴァイオリンは澤和樹、ヴィオラは市坪俊彦、第二ヴァイオリンは大関博明、チェロは林俊明、ピアノは蓼沼恵美子さんです。レンガ積みのセレネホールは、室内楽の演奏会にあっている。

半夏生(はんげ しょうず)

<宇奈月ダムの排砂ゲートから土砂が出される>

7月2日から七十二侯は、「半夏生(はんげ しょうず)」で二十四節気「夏至」の末侯。半夏という薬草が生える頃という意味。

半夏は烏柄杓(からすびしゃく)で、サトイモ科の多年草。花茎の頂きに仏炎包をつけ、中に肉穂花序を付ける独特な形をしている。宇奈月の山で見かける座禅草、水芭蕉、蝮草なども仏炎包を有し肉穗花序を付けている。仏炎包とは仏像の光背の炎形に似ているため。

この頃に降る雨は、半夏雨(はんげあめ)と言われ、大雨になることが多い。梅雨前線が日本列島に停滞するこの時期に、宇奈月ダムでは増水を利用して堆積した土砂を吐き出す排砂が行われるが、今年は1回目が6月16日から6月18日まで、2回目が7月1日から7月2日に行われた。上流のダムと連携排砂される。

7月1日は北アルプス・立山の夏山開き。みくりが池周辺では高山植物の見頃を迎える。夏山のシーズン到来である。

菖蒲華(あやめ はなさく)

<「田渕俊夫:放水」とカッシーナ>

6月27日から七十二侯は、「菖蒲華(あやめ はなさく)」で、二十四節気「夏至」の次侯にあたる。 菖蒲の花が咲く頃という意味。 菖蒲は「あやめ」とも「しょうぶ」とも読める。あやめ(菖蒲)は梅雨の到来を告げる花として親しまれている。 外花被のつけ根にある網目模様は、ハナショウブとカキツバタとの判別方法になる。

宇奈月公園では、6月の初めに開花し今は結実となり、 冷たい清水が流れる沢に源氏蛍が乱舞している。

立山黒部アルペンルートにある黒部ダムで6月26日から夏の行楽シーズンの到来を告げる観光放水が始まった。 黒部ダムは、河床からの高さが高さ186mと日本一の壁面を誇るアーチ式キダムで、二箇所の放水口から毎秒7.5トンずつ合計15トンを放水、10月15日まで毎日実施される。 豪音と共に噴出する水に日がさして虹が架かる。

セレネ美術館では、田渕俊夫画伯の黒部ダムの放水を捉えた院展出品作品が展示されている。大自然の中で水が放つエネルギーを巧みにとらえた名品である。